ベントナイトとは?
ベントナイトは、粘土鉱物モンモリロナイトを主成分として、石英、α-クリストバライト、オパールなどの珪酸鉱物を副成分として、長石、マイカ、ゼオライトなどの珪酸塩鉱物、カルサイト、ドロマイト、ジプサムなどの炭酸塩鉱物や硫酸塩鉱物、さらにパイライトなどの硫化鉱物を随伴する弱アルカリ性粘土岩の名称をベントナイトといいます。
ベントナイトと同様にモンモリロナトを主成分とし、同様な副成分鉱物を随伴しながら弱酸性~中性を呈する粘土岩は、国内では酸性白土と称してベントナイトと区別されています。
ベントナイトに含有する各鉱物を構成する元素は、地殻を構成する主要元素Si,Al, Fe,Mg,Ca,Na,K,O,H,S,Cからなっており、一般的な岩石の化学組成と類似しております。
ベントナイトBentoniteの名称は、米国ワイオミング州Fort Bentonの近くにある白亜紀層に産する特に高いコロイド性を持ち可塑性ある粘土に対して、Knight(1898)がBentoniteと命名し技術雑誌に発表したことによります。日本では第二次大戦から戦後しばらくは、膨潤する土であることから「膨潤土」と称していましたが、ほとんど膨潤しないベントナイトが発見されたこともあり、その後「ベントナイト」に名称統一されています。
日本におけるベントナイト鉱業の黎明は、昭和12年(1937年)と称され、群馬県、山形県内各地で企業化され、田畑の土壌改良、物資不足時代を反映した特殊洗剤せっけん用が主たる用途でありました。
モンモリロナイトとは?
モンモリロナイトMontmorilloniteの名称は、Damour and Salvetat(1847)がフランス国Montmorillonに産出した粘土に付けたのが始まりであります。その後Ross等(1926~1945)による研究により、モンモリロナイトは確かな粘土鉱物グループの一つとして確立しました。
モンモリロナイトは、鉱物学的には2八面体型含水層状珪酸塩鉱物で、理想的には次の化学式で表現されます。
txt
y=0.2~0.6
M:交換性陽イオンNa, K, Ca, Mg, Hなど
n :層間水の量
スメクタイトとは?
モンモリロナイトとよく似た結晶構造および特性を示す鉱物には、モンモリロナイトの他にバイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどの粘土鉱物があります。これらのグループ名称としてスメクタイトSmectiteといっています。
モンモリロナイトの形態
モンモリロナイトは、無水状態の基本面間隔が9.7Å(0.97nm)つまり約1ナノメーターのきわめて薄いシートが積み重なった状態で極めて微細な粒子となっております。したがって、モンモリロナイトの結晶は肉眼では見えないため、透過電子顕微鏡(TEM)で観察され、非常に薄いヒラヒラした薄層状結晶の積層状態が見えます。
1ナノメーターの厚さをコピー用紙(500枚で4.5cm厚さ)で例えれば、モンモリロナイトシート1枚の厚さがコピー用紙1枚の厚さだとすれば、コピー用紙1枚は810cm高さに積み重ねたコピー用紙厚さに相当します。
ベントナイトの成因
国内外で採掘されている主要なベントナイト鉱床は、数百万年~約2億年前の火山噴火による砕屑性噴出物を起源とする堆積物が、次第に地下深く埋積し地温および圧力上昇により地質学的スケールの物理的、化学的変質作用を受けて生成したものであります。ベントナイト鉱床の成因は、次の2タイプに大別されます。
- 層状で広大な範囲に薄く堆積した砕屑性噴出物が長期埋積したための温度・圧力による続成作用で生成した鉱床(米国ワイオミング州、群馬県安中-富岡-松井田地域など)。
- 厚く堆積した砕屑性噴出物が地下からの弱熱水作用を受けて生成した鉱床(ギリシャ国ミロス島、新潟県三川地域など)。
世界および日本の代表的なベントナイト鉱床の原物質が堆積した年代は、次の図のとおりと称されております。(Ma = 100万年)
ベントナイトの層間水
ベントナイト製品の水分は、ベントナイト鉱床が生成するに要した数百万年~約 2億年の永年にわたり育んで安定した状態を呈しているベントナイトが、工業プロセスにより乾燥されて製品中にいまだ残存しているものであります。そのほとんどはモンモリロナイト層間にあり、通常の水とは異なる性状を持っていると考えられています。
ベントナイト製造業者は、ベントナイトの基本的性質を工業用途に有効に発揮させる適正な製品水分を経験的に把握しております。実験として、粗砕したベントナイト原鉱を相対湿度40%の空気中で長期間乾燥し安定させた結果では、Naモンモリロナイト層間に1分子層の水が存在しています。この1分子層の水は、構造に基因して整然と配列し、あるエネルギーを持った地質学的な水といわれています。したがって、一般工業用ベントナイトとしては、少なくともこの地質学的な1分子層の水を保持していることが望ましいといわれます。
ベントナイトの膨潤
モンモリロナイトの層間陽イオンの種類により、膨潤のメカニズムが異なります。
層間陽イオンがNa+の場合、結晶層を引きつける力がCa2+より弱く、当初Na+の水和力で水分子が入り込み、水の供給が充分であれば次々と水分子が入り込む。このようにして層間隔が増大し無限に膨潤します。
一方、層間陽イオンがCa2+の場合、結晶層を引きつける力がNa+より強いものの、水和エネルギーがNa+より5倍強く2層の水分子までは容易に形成されます。しかしながら、水の供給が充分であっても結晶層を引きつける力に制限されて層間には3分子層までに限定されます。
モンモリロナイトの膨潤に影響を及ぼす外的要因として注目すべきは、モンモリロナイトの分散される水質があります。海水、セメント飽和上澄み液のような二価陽イオンが過剰な電解質溶液中において、Naモンモリロナイトは溶液中の二価陽イオンのケミカルアタック(Chemical Attack)により速やかにCaに富むモンモリロナイトに変わり、厚く積層した粒子を形成し、いわゆる凝集状態を呈する傾向にあります。
一方、米国ワイオミング州ビックホーン地域に賦存するベントナイトのような層間陽イオンNa+が優勢であるもののCa2+も豊富に存在している場合は、電解質溶液中の二価陽イオンへの交換が抑制される。
ベントナイト プロフィール
項 目 | 内 容 | 備 考 | ||
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揺籃期 | 1888年 | 米国ワイオミング州において企業採掘開始 | 明治21年 | |
1898年 | Benton層からBentoniteと命名 | 明治31年 | ||
1930年 | 東京工試 重宗亮一氏が山形県産ベントナイトを発表 | 昭和5年 | ||
1939年 | 豊順洋行により群馬県横川でベントナイト採掘開始 | 昭和14年 | ||
1942年 | 内田宗義・川村信一郎共訳 「ベントナイト粘土および用途」出版 |
昭和17年 |
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1946年 | 内田宗義著「膨潤土」出版。 ベントナイトの科学を総合的に紹介 |
昭和21年 |
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1969年 | 豊順鉱業により日本初の大規模機械化露天採掘開始 | 昭和44年 | ||
鉱物組成 | 主成分: | 粘土鉱物モンモリロナイトMontmorillonite | ||
副成分: | 珪酸鉱物/石英、クリストバライト、オパール 珪酸塩鉱物/長石、ゼオライト 粘土鉱物/マイカ、イライト 炭酸塩鉱物/カルサイト、ドロマイト 硫酸塩鉱物/セッコウ 硫化鉱物/パイライト |
副成分の遊離シリカにより、石英型とクリストバライト型に分けられる | ||
液性 | 弱アルカリ性 | 2%分散液では 一般に9.0~10.8 |
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種類 | Na-ベントナイト | 交換性陽イオンとしてNaイオンが支配的 |
Western Bentonite | |
Ca-ベントナイト | 交換性陽イオンとしてCaイオンが支配的 | Southern Bentonite | ||
活性化ベントナイト | ソーダ灰により改質 | Activated Bentonite | ||
ホワイトベントナイト | 有色物が少なく白色 | White Bentonite | ||
成因 | 火山灰または凝灰岩の続成変質 火山 岩、凝灰岩、火山灰等の熱水変質 |
層状 塊状 |
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粒子構造 | Na-ベントナイト | 水和したモンモリロナイトの単位構造層が数枚からなる積層構造 (約10nm) | カオリナイトでは150枚以上 (約100nm) |
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Ca-ベントナイト | 水和したモンモリロナイトの単位構造層が20枚以上の積層構造 (約20~40nm) | |||
特徴 | Na-ベントナイト | 水中で自ら吸水膨張してゲルを経てゾルになる | 両者の間にはレオロジー的に顕著な相違がある | |
Ca-ベントナイト | 水の存在下でせん断作用を加えると吸水膨張し分散する | |||
規格 | 日本薬局方、化粧品原料基準 ANSI/API(American Petroleum Institute SPEC 13A) TJFS(日本鋳造工学会・東海支部・無機砂型研究部会・試験方法) JBAS(日本ベントナイト工業会標準試験方法) |
医薬品、化粧品用 石油ボーリング用 鋳物砂用 一般試験用 |